【本】【感想】生涯投資家 -村上世彰-

 

生涯投資家 (文春e-book)

生涯投資家 (文春e-book)

 

 

2006年、ホリエモンとともに行ったニッポン放送株の買収騒動は、既に13年前(!)。同時学生だった僕の村上世彰に対する印象は「ホリエモンを陰で操ったお金が大好きな悪いおじさん」というものだった。

しかし、この本を読めば、彼が何を志して何をやり遂げたかったのかがクリアになる。決してお金のためではなく、お金(投資)によってどうしても成し遂げたいことがあったのだ。

その一つが「日本企業におけるコーポレートガバナンスの拡充」であり、この実現のために村上ファンドを立ち上げ、「モノ言う株主」となった。

コーポレート・ガバナンスとは、投資先の企業で健全な経営が行なわれているか、企業価値を上げる=株主価値の最大化を目指す経営がなされているか、株主が企業を監視・監督するための制度

 

投資家の視点から書かれたこの書籍は、上場を目指している者にとってはとても参考になる。

投資家は何をもとめ何を見ているのか。そのために、企業としてどうすればよいのか。考える機会にとてもよかった。

 

公器になった企業は決められたルールに従って、投資家の期待に応えるべく、透明で成長性の高い経営をしなくてはならない。企業は株主のために、利益を上げなければならない。

「期待値」のほか、私が投資判断を行なうにあたって重要視している指標がIRR(内部収益率、Internal Rate of Return) だ。手堅く見積もっても、IRRの数字が一五%以上であることが基準となる。

無借金だった二〇一二年以降、Appleは資本還元プログラムに使う原資を、社債の発行や借り入れによって賄った。そしてこのプログラムを開始してからも、四年で総資産は二倍近くに増えている。だが積極的な株主還元を行なっているため、純資産はほとんど増えていないことがわかる。  最近では事業の成長性に陰りが見え始め、株価が右肩上がりという状態ではない。しかし適度なレバレッジ、積極的な株主還元、自社株買いによる株価の下支えもあって、Appleの株価はPBR六倍程度、PERも十八倍程度の高い水準で推移している。社債の発行や借入を含めて資金を循環させることで、より高い利益を上げている好例だ。

 

一方で、上場後の経営者の持分比率をいかに高めておくかに頭を悩ましている僕にとって、耳の痛い指摘もある。そもそも上場をする必要があるのか?と投げかけられる。

 

株式発行による直接金融で資金を調達する必要のない企業は、上場を廃止して非上場になることを検討すべきだと思う。特に近年流行った「買収防衛策」を導入するような企業は、本当に買収されることを回避したいのであれば、非上場化すべきだ。買収防衛策に限った話ではない。

上場企業が買収されることをリスクと考えるのなら、買収防衛策や持ち合いといった保身的な意味での対策を取るのではなく、コーポレート・ガバナンスを徹底し、企業価値の向上に注力することだ。それこそが、買収されるリスクを下げる有効な手段だ。株価の高い企業は乗っ取られない。それは世界の常識だ。

繰り返しになるが、もう一度強調しておきたい。上場している会社の株式は、誰でも売買できる。上場企業はそのリスクとコストを踏まえた上で、それでも必要がある場合のみ、上場を維持するべきだ。「意義や必要性はわからないが、とりあえずステータスとして上場していたい。でも、自分が嫌いな相手には株を持ってほしくない」という姿勢は、上場企業として通用しない。

 

彼はまだ投資家を続けている。

自分の信念を達成するために、ファンドではなく、自分だけのお金で。

 

僕も将来は投資家になりたいと、率直に思った。

 

 

その他ハイライト

父はいつも「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり、一番高いところで売れるものだと思うな」と言っていた。まさにその通りだった。

村上ファンドを立ち上げて、私は有名なファンドマネージャーになった。一方で私は、時代遅れの投資家なのだということもひしひしと感じる。二〇〇〇年代に入ってからITブームが来て、有形資産をもたないIT企業の株価が「成長性」をもとに高く評価されているが、私には理解できない世界だ。「売上が毎年倍になっていって」とか、「今は赤字だけど、十年後には一千億円の利益を出します」という事業計画を、精査するスキルが私にはない。だから、IT企業への投資を躊躇してきた。  私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものだ。

日本の企業で通常行なわれているのは、候補者別に賛否を問う方法だ。これでは大株主の意向が通りやすく、少数株主の意見は反映されにくい。累積投票制度は日本でも会社法三百四十二条で規定されており、株主総会の五日前までに、株主が株式会社に対して請求すれば可能になる。しかし実際は、定款で累積投票制度を導入しないと規定している会社がほとんどだ。

「上場するというのは公器になったということであり、誰でも市場で株式を購入できる状態になること。ファンドにしても、安ければ買う、高ければ売るのはビジネス上当たり前。上場している以上は、誰が大株主になっても、自分はその株主の下で企業価値を向上させ、会社を運営していく」(ホリエモン)

 

 

 

 

生涯投資家 (文春e-book)

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